演劇企画集団LondonPANDA vol.17『他人の人生の他人』の音響システム紹介

 2024/11/30,12/1に公演がありました、演劇企画集団LondonPANDA vol.17『他人の人生の他人』[たにんのじんせいのひと]の音響仕込みはこんな風でした。 会場は、エル・パーク仙台 ギャラリーホールです。

 図面からわかるように二面客席で、細長い舞台を囲むように、9系統12台のスピーカーを配置しました。舞台逆側にあるスピーカー群からの音を主にお客様に聴いていただこう、というプランです。手前ブロックの客席なら「奥」のスピーカー群がこれにあたります。反対側は逆です。上下左右に広がりがあり、下にはセンタースピーカーもある、という配置です。
 5人すべての俳優にワイヤレスマイクをつけていただき、小さく発語されるせりふも観客に届くようにしました。ディレイをしっかり設定して、音像は舞台上に定位するようにしました。 置きや吊りのマイクは無しです。

 再生系のトラック数はステレオ6モノラル2で、それぞれミキサーの別チャンネルで受け、各スピーカーへ送るバランスを設定しました。例えば、ある音楽は舞台空間全体に広がり、喫茶店の環境音や波打ち際の音などあまり頭上から聴こえると現実的でない音は下からが強めで、波打ち際の音と同時に鳴らす潮騒は全体に広がり(実際の海辺の、足元からはざあざあという個々の波音が聴こえ、潮騒に包まれてもいる感じを作ろうとしました。)、電話の音は電話のあるあたり近くから、という感じです。
 結線図にあるように、主PCからミキサーへはUSBケーブル一本で、副PCからは、USB-AES50インターフェイス(Klark Teknik DN9630)という多少マニアックな機材を使って入力しています。DANTEが便利なのでしょうけれど、僕はAES50です。

 再生に用いたソフトはAbleton Liveで、鍵盤型MIDIコントローラ(Ottavia)からの信号を2台のPCで同時に受け、同じデータを走らせています。主PCに異常があったら、ミキサー側の操作(パッチの切り替えやフェーダーの上げ替え)ですぐに副PCからの音が出るようにしてあります。

 使用したスピーカーを、大きい方から持ち場とともに紹介しますと、下記のような感じです。仕込み図と照らし合わせてご覧ください。

EV Sb121 : 低音用 舞台両端の幕の裏

持ってもいるのですが、運搬の都合で、今回は劇場から借用しました。

Martin Blackline X8 : 吊り 四隅

うちでいちばんよく出る8インチのスピーカーです。取りまわしもよく、音も良いです。

ClassicPro CubeMini : 床置き 舞台両前つら中央

前回から現場に出し始めました。一部で話題のOEM品。値段の割にかなり健闘します。

YAMAHA VXS4MLB : 床置き 四隅

小会場での公演や、小さな効果音や、今回のように極力目立たない方が良く小音量で良い場合に重宝します。

 パワーアンプは全持ち込みでした。スピーカーの、大きい二種はすべてCrownのXTiシリーズで。小さい二種は、D&Mの今はなきDA04です。XTiシリーズは、がっちりドライブし続けない限りはファンが回らず、ごく静かなので、僕にはありがたいです。DA04はそもそもファンレス。卓の隣に置いていても、うるさくて困ることがありません。表示が明るくて暗転の邪魔にはなるので、黒テープで隠して暗くしています。

 卓周りはこんな感じです。

 左手前にワイヤレスマイクの受信機群。ミキサーと、その上に台本iPadがアームで支持されていて、主PCが見えていまして、副PCはその裏側に控えています。鍵盤型MIDIコントローラのOTTAVIAも見えています。
 出力系のディレイもイコライザも、入力系のディレイもイコライザもコンプレッサー系も、すべてデジタルミキサー(MIDAS M32R Live)の内蔵の機能で賄えています。良い時代です。

 編集しやすい図面ファイルも置いておきます。何かの参考になれば幸いです。

音響仕込み図(平面図)と音響結線図(Dynamic DrawファイルをZIP圧縮してあります)

 二面客席でお芝居をする、となると、吊り点と舞台との位置関係を、きちんと考えておかないと、音響さんと照明さんがまともに仕事ができなくなりかねません。今回は、経験ある舞台監督が、きちんと考えて配置を決めてくださいました。(さほど経験がない場合は相談をなさると良いと思います。)また、エル・パーク仙台のギャラリーホールは、棒状のバトンではなくグリッド状のスペースフレームが昇降する機構で、吊り物の位置の自由度が高いのも、非常に助かっています。吊り点の取れないところにスピーカーを吊ることは、通常は難しいか非常に手間がかかります。
 床置きのスピーカー群は、俳優やお客様が蹴る、ということが容易に想定できたので、固定をしっかりしました。一番小さいスピーカーは、まずL字の鉄板(百円ショップの、ブックスタンドで良いサイズのものがありました。)をがっちり床にとめて、そこに取り付けたのが工夫です。また、場内案内係の方々と連携して、注意をして頂いたりもしました。結果、かなり理想的な位置にスピーカーを配置できました。
 出演者の声のSRは、補助的なもので大丈夫な(ばーんと歌ったりするわけではない)ので、ハウリングマージンも充分でした。当初調整中に、音像重視でセンターのスピーカーからもしっかり目に声を出してみていたら、それが俳優にとてもよく聞こえてしまい、お芝居が変わる(当然です)、ということがありまして、再調整したりしました。最終的には、お客様の感想を拝見していても、自然によく聞こえていたようで、ほっと胸をなでおろしました。


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